「返納なんて、まだ早い」
父がそう言ったあと、居間の空気が止まりました。
家族は、返納という言葉を出すまでに何度も迷っていました。車庫の柱に新しい傷がある。夕方の運転で歩行者に気づくのが遅い。病院帰りは疲れているのに、本人は「慣れた道だから大丈夫」と言う。
でも、父の言い分にも現実があります。
病院は車で20分。スーパーは坂の下。薬局も、役所も、親戚の家も、車がある前提で生活ができています。いきなり返納の話をすれば、本人には「生活を取り上げられる」と聞こえてしまいます。
そのとき、家族でできる一つの方法があります。
返納を決める前に、1か月だけ運転を休んで、車なしで生活が回るか試すことです。
これは、免許制度上の手続きではありません。家族内で行う生活の確認です。通院、買い物、薬の受け取り、外出、急な用事を、車を使わずにどう回すかを実際に試します。
警察庁は、安全運転相談窓口について、加齢に伴う身体機能の低下等により運転に不安のある高齢ドライバーや家族が相談できる窓口を設けていると案内しています。また、安全運転相談の概要では、高齢者向けの安全運転相談として、夜間や雨天時の運転を避けるなどの補償運転の助言例も示されています。
この記事では、親の運転を一定期間休止して生活を試す方法を、家族が実行できる形で整理します。
本記事は一般的な情報整理を目的としています。警察庁や都道府県警察が実施する公式検査ではなく、免許更新の結果、認知症の診断、運転可否を判定するものではありません。個別の健康状態、運転不安、免許制度上の判断は、医療機関、都道府県警察、安全運転相談窓口等にご相談ください。
まず結論:返納を迫る前に「車なしで生活が回るか」を試す
親の運転が不安になったとき、家族はすぐに結論を出したくなります。
もう返納した方がいいのではないか。
でも、車がないと生活できないのではないか。
本人が怒るのではないか。
この板挟みを少しほどく方法が、一定期間の運転休止です。
ただし、ここでいう運転休止は、法律上の免許手続きではありません。家族内で、一定期間だけ車を使わない生活を試し、困る場面を見つけるための生活テストです。
目的は、親を追い詰めることではありません。
- 通院が続けられるか
- 買い物が途切れないか
- 薬の受け取りができるか
- 本人が孤立しないか
- 家族送迎が続けられるか
- タクシーやバス、宅配、地域支援を使えるか
- 返納後に本当に困る場面はどこか
これを、実際の生活で確かめます。
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運転休止テストで決める5つのこと
始める前に、家族で5つだけ決めます。
| 決めること | 内容 |
|---|---|
| 期間 | まずは2週間から1か月 |
| 範囲 | 全部休むか、夜間・雨天・遠方だけ休むか |
| 代替手段 | 通院、買い物、薬、外出をどうするか |
| 記録 | 困ったこと、費用、家族負担を書く |
| 見直し日 | いつ家族会議をするか |
いきなり「今日から全部車を使わない」とすると、本人の抵抗が大きくなります。
まずは範囲を決めます。
1週間だけ、夜と雨の日は運転を休む
2週間だけ、通院以外は車を使わない
1か月だけ、買い物を家族送迎と宅配で試す
段階的に試す方が、本人も参加しやすくなります。
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本人への切り出し方
運転休止テストは、言い方で結果が変わります。
避けたい言い方:
返納するしかないから、まず車なしで慣れて。
危ないから、もう乗らないで。
家族が決めたから、今月は運転なしね。
この言い方だと、本人は「自分の生活を決められた」と感じます。
使いやすい言い方:
返納するかどうかを今日決めたいわけじゃないよ。
ただ、もし車を使わない日が増えたら、通院や買い物で何に困るかを一度見ておきたい。
1か月だけ、生活の試し運転をしてみない?
本人が「車がないと無理だ」と言ったら、こう返します。
無理かどうかを決めるために、いきなり返納するんじゃなくて試したい。
困ったことが分かれば、支援制度や家族の分担を考えられるから。
目的を「返納させる」ではなく、「生活の困りごとを見つける」にします。
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1か月の生活テスト計画表
生活テストは、カレンダーに落とします。
| 週 | やること | 確認すること |
|---|---|---|
| 1週目 | 通院と買い物を書き出す | 車なしで行ける用事、行けない用事 |
| 2週目 | 買い物を家族送迎・宅配・徒歩で試す | 食材、日用品、薬の不足 |
| 3週目 | 通院や薬の受け取りを代替手段で試す | 予約、待ち時間、費用、家族負担 |
| 4週目 | 外出・趣味・急な用事を確認する | 孤立感、予備費、緊急時の不安 |
記録する項目:
日付:
用事:
いつもなら車で行くか:
今回はどうしたか:
かかった費用:
かかった時間:
本人の感想:
家族の負担:
次回の改善案:
この記録があると、家族会議で感情だけの話になりにくくなります。
「車がないと無理」ではなく、「木曜の通院だけはタクシーが必要」「買い物は週1回の家族同行で足りる」「薬は通院日にまとめられる」と具体化できます。
関連記事: ヒヤリハットを記録する方法
通院をどう試すか
最初に確認するのは通院です。
通院が崩れると、本人も家族も不安になります。まずは、次回の通院を車なしで行けるか試します。
確認すること:
- 予約時間に間に合うか
- タクシーを呼べる地域か
- バスや電車で行けるか
- 家族が送迎できる曜日か
- 診察後に薬局へ寄れるか
- 待ち時間を本人が負担に感じないか
- 雨の日や体調不良の日はどうするか
通院メモ:
病院名:
片道の距離:
いつもの所要時間:
代替手段:
片道費用:
付き添いの必要:
薬局への移動:
次回も続けられるか:
薬、眠気、視力、もの忘れなどが運転不安に関係していそうな場合は、通院時にかかりつけ医へ相談します。
関連記事: かかりつけ医へ相談するときの伝え方
買い物をどう試すか
買い物は、通院より頻度が高いことがあります。
週1回のスーパー、牛乳や卵の買い足し、重い米や水、日用品。ここを見落とすと、返納後の生活が急に不便になります。
試す方法:
- 家族が週1回同行する
- 宅配やネットスーパーを1回だけ使う
- 移動販売や地域の買い物支援を調べる
- 近所の店で足りるものを分ける
- 重いものだけ配送にする
- 薬や日用品を通院日にまとめる
買い物メモ:
週に何回買い物へ行くか:
重いものは何か:
冷蔵庫に何日分入るか:
本人が自分で選びたいものは何か:
家族が代われるものは何か:
宅配で代替できるものは何か:
大切なのは、買い物を単なる物の補充と見ないことです。本人にとって、スーパーで人に会うこと、商品を選ぶこと、外へ出ること自体が生活の一部になっている場合があります。
関連記事: 返納後の生活
外出と孤立を確認する
返納後の不安は、通院と買い物だけではありません。
友人との集まり、散髪、墓参り、畑、趣味、地域の会合。車がなくなると、本人の外出が急に減ることがあります。
1か月テストでは、次の外出も書き出します。
| 外出 | 頻度 | 車なしの方法 | 本人の気持ち |
|---|---|---|---|
| 友人宅 | 月 回 | 家族送迎、タクシー、徒歩 | |
| 散髪 | 月 回 | バス、タクシー、送迎 | |
| 墓参り | 年 回 | 家族同行 | |
| 畑・趣味 | 週 回 | 家族送迎、近所の協力 | |
| 地域行事 | 月 回 | 送迎、自治体支援 |
外出が減ると、本人は「車を失う」以上に、「自分の生活が小さくなる」と感じます。
だから、生活テストでは費用だけでなく、本人の気持ちも記録します。
今日は外に出られてよかった
家族に頼むのが気を使う
タクシーは楽だけど毎回だと遠慮する
買い物は自分で選びたい
こうした言葉が、返納後の支援を考える材料になります。
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地域包括支援センターに相談するタイミング
1か月の生活テストをしてみると、家族だけでは埋められない穴が見えてくることがあります。
通院の付き添いが難しい。買い物の頻度が多い。本人が一人暮らしで、外出が減ると孤立しそう。家族が遠方にいて、毎週の送迎は続けられない。
その場合は、地域包括支援センターに相談する選択肢があります。
厚生労働省は、地域包括ケアシステムについて、住まい、医療、介護、予防、生活支援が一体的に提供される体制の構築を進めると説明しています。また、地域包括支援センターは、地域の高齢者の総合相談、権利擁護、地域の支援体制づくり、介護予防の援助などを行い、市町村が設置する中核的な機関と説明されています。
相談するときは、次のように伝えます。
親が運転を休む生活を1か月試しています。
通院、買い物、薬、外出で困ったことを記録しました。
地域で使える移動支援や買い物支援、見守りの相談先を知りたいです。
「返納するかどうか」だけでなく、「生活をどう支えるか」を相談します。
関連記事: 返納後の生活
安全運転相談窓口に相談するタイミング
運転休止テストをしても、家族の不安が強い場合は、安全運転相談窓口も使います。
警察庁は、都道府県警察に、安全な運転に不安がある高齢ドライバーや家族が相談できる窓口を設けていると案内しています。全国統一の専用相談ダイヤル #8080 から、発信場所を管轄する都道府県警察の安全運転相談窓口につながります。
また、安全運転相談の概要では、自主返納に関する制度説明や、バス・タクシー割引等の支援施策、地域包括支援センターの紹介、運転経歴証明書の説明などに触れられています。
相談前に整理すること:
- いつから運転休止テストをしているか
- 休止前にどんなヒヤリハットがあったか
- 休止中に生活で困ったこと
- 本人が運転再開を強く希望しているか
- 医療機関に相談したか
- 家族として何を知りたいか
使いやすい言い方:
親の運転に不安があり、1か月だけ運転を休む生活を試しています。
生活面の課題も見えてきたのですが、家族として今後どのように相談を進めればよいでしょうか。
関連記事: 親の運転について警察へ相談する方法
休止テスト中にやってはいけないこと
運転休止テストは、家族関係を壊さないように進めます。
避けたいこと:
- 本人に説明せず、勝手に車やキーを管理する
- 困った場面を責める材料にする
- テスト期間中に結論を急ぐ
- 家族の送迎負担を一人に集中させる
- タクシー代だけを見て「やっぱり無理」と決める
- 医療や相談先につなげず、家族内だけで抱え込む
特に、本人に説明しないまま車を使えなくする方法は、強い反発や不信感につながります。緊急性が高い場合は、安全確保を優先しつつ、警察や医療機関、地域包括支援センターなどの相談先も使います。
関連記事: ヒヤリハットを記録する方法
1か月後の家族会議
1か月たったら、家族会議を開きます。
話す順番:
- できたこと
- 困ったこと
- 本人がつらかったこと
- 家族が続けにくかったこと
- 費用
- 相談先に聞くこと
- 次の1か月の方針
家族会議で使う表:
| 項目 | うまくいったこと | 困ったこと | 次に試すこと |
|---|---|---|---|
| 通院 | |||
| 買い物 | |||
| 薬 | |||
| 外出 | |||
| 家族送迎 | |||
| 費用 |
結論は、次のように段階的にします。
夜間と雨天だけ休む期間を続ける
通院だけ家族送迎にする
買い物だけ宅配を続ける
安全運転相談窓口へ相談する
かかりつけ医へ相談する
返納後の生活準備を進める
いきなり一つの結論にしないこと。
生活テストで見えた穴を、一つずつ埋めていくこと。
それが、家族会議を前に進めるコツです。
関連記事: 家族会議ガイド
自主返納を考える場合
生活テストをして、車がなくても通院や買い物が回る見通しが立った場合は、自主返納の手続きや運転経歴証明書も確認します。
警察庁は、運転免許が不要になった方や、加齢に伴う身体機能の低下等により運転に不安を感じるようになった高齢ドライバーが、自主的に運転免許証を返納できると説明しています。また、自主返納した方や運転免許を更新せず失効した方は、一定の要件のもとで運転経歴証明書の交付を受けられ、平成24年4月1日以降に交付された運転経歴証明書は公的な本人確認書類として利用できます。
ただし、申請場所、受付時間、必要書類、要件は地域差があります。詳細は各都道府県警察の運転免許センター等に確認します。
生活テスト後に確認すること:
- 自主返納の受付場所
- 必要書類
- 運転経歴証明書
- 自治体の支援制度
- 車を残すか手放すか
- 保険や車検の扱い
- 家族の送迎分担
関連記事: /menkyo-hennou-tetsuzuki/
無料体験ナビで確認できること・できないこと
当サイトの無料体験ナビは、運転休止テストを始める前に、家族の不安を整理するための補助です。
確認できること:
- どの場面で運転不安があるか
- 夜間、雨天、高速道路など条件別の不安
- 運転休止テストで何を試すべきか
- かかりつけ医や安全運転相談窓口へ相談する優先度
- 返納後の生活準備を始める必要性
確認できないこと:
- 個別の運転可否
- 医学的診断
- 認知症かどうかの判定
- 免許更新の結果
- 自主返納をするべきかどうかの最終判断
- 家族内の合意形成の代行
不安が強い場合は、無料体験ナビだけで完結させず、かかりつけ医、安全運転相談窓口、地域包括支援センター、都道府県警察等に相談してください。
運転を休む生活テストの前に、家族の不安を整理する
公式検査ではありません。免許更新の結果、認知症の診断、運転可否を判定するものではなく、家族で相談する優先度を整理するための体験コンテンツです。
よくある質問
Q. 運転を一定期間休むことは、免許返納と同じですか?
同じではありません。この記事でいう運転休止テストは、家族内で車を使わない生活を試すための生活実験です。免許制度上の自主返納や取消しとは別です。制度上の手続きは、都道府県警察や運転免許センターに確認してください。
Q. 何日くらい試せばよいですか?
まずは2週間から1か月が現実的です。通院、買い物、薬、外出、急な用事を一通り試せる期間にします。難しい場合は、夜間、雨天、遠方だけ休むなど条件を絞って始めます。
Q. 親が強く嫌がる場合はどうすればよいですか?
「返納を決める話」ではなく、「困る場面を見つけるための試し期間」と伝えます。本人が強く反発し、家族だけでは話が進まない場合は、安全運転相談窓口、かかりつけ医、地域包括支援センター等に相談します。
Q. 運転休止中のタクシー代が高ければ、車を残すべきですか?
費用だけでは決められません。タクシー代、家族送迎、自治体支援、宅配を組み合わせて見ます。同時に、ヒヤリハット、健康面、家族負担、本人の外出機会も確認します。
Q. 車のキーを家族が預かってもよいですか?
緊急性や安全上の事情がある場合を除き、本人に説明せず一方的に進めると不信感が強くなります。家族内で合意できない場合は、安全運転相談窓口や医療機関、地域包括支援センターなど第三者の相談先を使います。
Q. 生活テスト後に返納を考える場合、何を確認しますか?
自主返納の受付場所、必要書類、運転経歴証明書、自治体支援、通院・買い物の代替手段、車の保険や処分、家族送迎の分担を確認します。地域差があるため、都道府県警察や自治体の最新情報を確認してください。
まとめ
親の運転に不安があっても、いきなり返納の結論を迫ると、話し合いが止まることがあります。
そんなときは、一定期間だけ運転を休んで、車なしで生活が回るかを試します。
通院、買い物、薬、外出、家族送迎、費用、本人の気持ち。1か月だけでも記録すると、返納後に本当に困る場所が見えてきます。
この生活テストは、親を追い詰めるためのものではありません。返納後も生活を小さくしないための準備です。
困る場面が見えたら、家族だけで抱え込まず、安全運転相談窓口、かかりつけ医、地域包括支援センター、都道府県警察に相談しながら、次の一歩を決めていきます。
参考情報
執筆・編集情報
この記事は、警察庁の安全運転相談窓口、安全運転相談の概要、自主返納、厚生労働省の地域包括ケアシステムの公開情報を確認し、家族向けに整理したものです。運転休止、運転不安、医療機関への相談、自主返納、地域支援は個別事情により異なります。最終確認日は2026年6月22日です。
本記事は一般的な情報整理を目的としており、個別の運転可否、医学的診断、法的判断を行うものではありません。

