認知症の親の車は売却できる?本人が手続きできないときの進め方

認知症の親の車は売却できる?のアイキャッチ画像 返納後の車

この記事は、認知症が疑われる親・認知症と診断された親の車をどうするか悩んでいるご家族向けです。

先に結論からお伝えします。認知症などで判断能力が不十分になった親の車は、たとえ家族でも、本人に無断で売却することはできません。車は本人名義の財産であり、名義変更の手続きそのものが「本人の意思確認」を前提に作られているからです。

ただし、「もう何もできない」わけではありません。本人の意思確認がどの程度できるかによって、取れる道が変わります。この記事では、家族でも勝手に売れない理由、意思確認ができるうちに済ませたいこと、難しくなってからの選択肢(成年後見制度)、そして相談先を、公的情報に基づいて順番に整理します。

なお、この記事は制度の全体像を整理するもので、法的助言ではありません。個別の判断は、記事内で紹介する専門窓口で確認してください。

まず結論:進め方は「本人の意思確認ができるか」で分かれる

親の状態 取れる進め方
話し合えば内容を理解し、売却に同意できる 通常の売却・名義変更へ進める(本人の同意と書類をそろえる)
判断能力が不十分で、契約内容の理解が難しい 家族の判断だけでは進められない。成年後見制度などの検討と専門窓口への相談
まだ運転を続けていて、事故が心配 車の処分より先に、運転の安全について相談(後述の窓口へ)

「認知症の診断があるかどうか」だけで機械的に決まるものではなく、契約の内容を理解できる状態かどうかが問題になります。迷う場合ほど、自己判断で進めず相談窓口を使ってください。

なぜ家族でも勝手に売却できないのか

車は「本人名義の財産」だから

車検証に書かれた所有者が親本人なら、その車は親の財産です。家族が日常的に送迎で使っていても、購入資金を援助していても、名義が本人である限り、処分を決める権利は本人にあります。

これは冷たいルールではなく、本人を守る仕組みでもあります。判断能力が落ちた人の財産が、周囲の判断だけで処分されてしまうことを防ぐ壁になっているからです。

名義変更の書類は「本人の意思確認」を前提にしている

普通車(登録車)の名義変更(移転登録)では、国土交通省の案内によると、旧所有者側について次のような書類が求められます(確認日:2026-07-06)。

  • 実印を押した譲渡証明書
  • 発行から3か月以内の印鑑(登録)証明書
  • 代理人が申請する場合は、実印を押した委任状

実印と印鑑証明書は、本人が「自分の意思でこの車を譲る」と確認したことを示すためのものです。つまり、本人が内容を理解して実印を押せる状態でなければ、正規の手続きが成立しない構造になっています。

「書類さえ集まれば大丈夫」ではない

民法には、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」という規定があります(民法第3条の2)。

かみ砕くと、内容を理解できない状態で結んだ契約は、あとから無効とされる可能性があるということです。仮に書類がそろって名義変更が通っても、売買契約そのものが後日争いになるおそれがあります。買取業者とのトラブル、親族間のトラブル、どちらの火種にもなります。

一方で、認知症と診断されていたら直ちにすべての契約が無効になる、というものでもありません。意思能力があったかどうかは、その行為の時点ごとに個別に判断されるものとされています。「うちの場合はどうなのか」を自己判断せず、専門窓口で確認することが、結局いちばん安全で早い道です。

軽自動車は書類が簡素でも、無断処分はすすめない

軽自動車の名義変更は、軽自動車検査協会の事務所・支所で行い、申請手数料は無料です。案内上、普通車のような実印・印鑑証明書の押印要件は記載されておらず、新しい使用者以外が手続きする場合は「申請依頼書」を使う扱いになっています(確認日:2026-07-06)。

このため「軽なら家族だけで動かせるのでは」と考えたくなりますが、手続きが通ることと、処分が法的・家族的に問題ないことは別です。車が本人の財産であることも、意思能力の考え方も、普通車と変わりません。書類の簡単さを理由に無断で進めると、後から「勝手に売られた」という深い傷を家族関係に残すことがあります。

先に車検証を見る:所有者が本人ではない場合もある

ここまでの話はすべて「所有者=親本人」が前提です。ローンで購入した車では、車検証の所有者欄がディーラーや信販会社になっていること(いわゆる所有権留保)があり、その場合は売却の前に所有者側の手続き確認が必要になります。本人の意思確認の問題とは別の壁になるため、何よりも先に車検証の所有者欄を確認してください。ローンが残っている車の売却手順は「まだ走れる親の車を売却する前に確認すること」でも触れています。

意思確認がまだできるうちに済ませたいこと

「最近少し心配だが、話せば分かる」という段階が、実はいちばん動ける時期です。この段階でできることをリストにします。

  • 車検証で名義を確認する(所有者欄がローン会社・ディーラーになっていないか)
  • ローンやリースが残っていないか確認する(残っていると売却手続きが変わります)
  • 任意保険の証券と等級を確認する(やめた後の扱いは後述)
  • 鍵が何本あるか把握する
  • 本人の意向を、日付を入れてメモに残す(「◯月◯日、本人が『来年の車検までに手放す』と話した」など。後で家族間の記憶違いを防ぎます)
  • 売る・譲る・残すの選択肢を家族会議で一度整理する

売却・処分の選択肢全体の比較は「親の車を売る・処分する前に確認すること」で詳しく整理しています。本人の同意が取れていて、実際に売却へ進める段階なら「まだ走れる親の車を売却する前に確認すること」が実務の手順です。

なお、将来に備える仕組みとして、本人が元気なうちに支援者を決めておく「任意後見」や、家族信託と呼ばれる方法もあります。いずれも設計に専門知識が必要なため、名前だけ覚えておき、検討する場合は司法書士・弁護士などの専門家に相談してください。

判断能力が不十分になった後の選択肢:成年後見制度

すでに契約内容の理解が難しい状態であれば、選択肢として成年後見制度があります。

法務省の案内によると、成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などの理由で判断能力の不十分な方の財産管理や契約を保護・支援する制度で、大きく分けて法定後見(後見・保佐・補助の3類型)と任意後見があります(確認日:2026-07-06)。

すでに判断能力が不十分になっている場合に使うのは法定後見です。裁判所の案内では、後見開始の申立ては、本人・配偶者・四親等内の親族などが、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行うとされています(確認日:2026-07-06)。選ばれた成年後見人が、本人に代わって財産の管理や契約に関する行為を行います。車の売却をどう進められるかは、選任後に後見人の職務の範囲内で確認していく形になります。

知っておきたい注意点も先にお伝えします。

  • 申立てから開始までには一定の時間がかかります
  • 申立費用や、後見人への報酬などの費用が発生する場合があります
  • 後見人には、家族ではなく司法書士・弁護士などの専門職が選ばれる場合もあります
  • 一度始まると、原則として本人の判断能力が回復するまで続く制度です

「車を売るためだけ」に使うには重い制度と感じるかもしれません。実際には、車だけでなく、預貯金の管理、介護サービスの契約、施設入所の契約など、この先必ず出てくる手続き全体を支える仕組みとして検討するのが現実的です。

どこに相談すればよいか

いきなり家庭裁判所に行く必要はありません。次のような窓口で、制度を使うべき段階かどうかから相談できます。

  • 地域包括支援センター(高齢者の総合相談窓口。運転の悩みを含めた相談の使い方はこちら
  • 市区町村の成年後見の相談窓口(自治体により「中核機関」「権利擁護センター」などの名称があります)
  • 法テラス、司法書士会(リーガルサポート)、弁護士会の相談窓口

厚生労働省の成年後見制度の情報サイト(後述の出典)にも、制度の説明と窓口案内がまとまっています。

売却を急げないときは「置いておく間」を整理する

成年後見の検討には時間がかかるため、「その間、車をどうするか」という現実的な問題が残ります。運転をすでにやめているなら、急いで売ることより、置いておく間の安全とお金を整理する方が先です。

親が亡くなった後は「相続」の手続きに変わる

判断がつかないまま車を置き続け、親が亡くなった場合、車は相続財産として扱われ、名義変更の手続きも変わります。軽自動車検査協会の案内では、相続にともなう名義変更では戸籍謄本等、または法務局の法定相続情報一覧図が必要とされています(確認日:2026-07-06)。普通車の相続手続きも専用の書類が定められているため、運輸支局の案内で確認してください。

「生前に売るか、相続で処理するか」を損得だけで決める必要はありませんが、相続になると相続人全員の関与が必要になる場面があり、家族の手間は増える傾向があります。放置が長引きそうなときほど、早めに専門窓口へ相談する価値があります。

まだ運転を続けているなら、処分より先に「安全の相談」

認知症が疑われる状態で親がまだ運転を続けている場合、車の売却手続きよりも先に確認すべきことがあります。運転の安全です。

このとき、家族が焦って鍵を隠す・車を勝手に処分するという手段に出ると、本人の混乱や強い反発を招き、家族関係が壊れてかえって説明や受診が難しくなることがあります。実力行使の前に読んでいただきたい内容を「車の鍵を預かる前に家族が確認すること」にまとめています。

相談先は次の順番が使いやすいです。

  1. かかりつけ医 — 日頃の様子を知る医師に、運転の心配を含めて相談する(かかりつけ医への相談の進め方
  2. 警察の安全運転相談窓口(#8080) — 運転継続に不安がある高齢ドライバーとその家族のための専用窓口です(#8080の使い方
  3. 地域包括支援センター — 生活全体・介護の入り口として

いま親の運転がどの程度心配な状態か、相談を急ぐべきかを整理したい場合は、無料のセルフチェックが使えます。

親の運転危険度チェックを開く

このチェックは公式検査ではありません。免許更新の合否、認知症の診断、運転可否を判定するものではなく、相談の優先度を整理するための材料です。

家族が今日できる確認リスト

今日、物理的に手を動かせることだけを並べます。

  • 車検証を探し、所有者欄の名義を写真に撮る
  • 任意保険の証券(または保険会社のマイページ)を確認する
  • 車のローン・リースの有無を書類で確認する
  • 鍵の本数と保管場所を把握する
  • 本人の発言・様子を日付入りでメモする
  • 地域包括支援センターの連絡先を調べて控える(市区町村名+「地域包括支援センター」で検索)
  • 家族間で「誰が窓口になるか」を決めて共有する

よくある質問

Q. 同居して介護もしている家族なら、代わりに売ってよいのでは?

介護の負担と、財産を処分する権限は、残念ながら別の問題です。名義が本人である限り、同居家族でも無断での売却はトラブルの元になります。本人の同意が取れるうちに一緒に進めるか、難しければ成年後見制度の検討を含めて専門窓口に相談してください。

Q. 軽自動車なら印鑑証明が要らないと聞きました。家族だけで手続きしてよいですか?

書類の上で手続きが通ることと、処分が適切であることは別です。軽自動車も本人の財産であることは変わらず、意思能力の考え方(民法第3条の2)も同じです。後日の親族間トラブルを防ぐためにも、無断では進めないでください。

Q. 成年後見の相談はどこから始めれば?費用はどれくらい?

最初の相談は、地域包括支援センターか市区町村の成年後見相談窓口が入りやすい窓口です。申立費用や後見人の報酬は事案によって異なるため、金額は家庭裁判所の案内や相談先で確認してください。

Q. 売らずに、親の車を家族がそのまま乗り続けてもいいですか?

名義を変えずに家族が使い続けること自体は珍しくありませんが、任意保険の運転者限定・年齢条件によっては、家族の運転が補償の対象外になっている場合があります。乗り続けるなら、先に保険会社へ契約内容を確認してください。将来的に名義を移す可能性があるなら、本人の意思確認ができるうちに話し合っておく方が選択肢を残せます。保険の確認ポイントは「免許返納後の自動車保険はどうする?」にまとめています。

Q. 本人が「まだ売らない」と言い張ります。認知症の初期だと思うのですが。

意思確認ができる状態なら、本人の意向を無視して進めることはできませんし、押し切ると心の傷が残ります。「売るかどうか」ではなく、「乗らない間のお金と安全をどう整理するか」から話すと、対立になりにくくなります。維持費の棚卸し(前述の計算表)は、その入り口として使えます。

まとめ:次に読むページ

車の処分は、進め方さえ間違えなければ、家族関係を守りながら整理できる問題です。焦って一人で抱えず、使える窓口を頼ってください。

出典・確認日

いずれも 2026-07-06 に内容を確認しました。制度は変わることがあるため、手続き前に最新の公式情報を確認してください。

  • 国土交通省 自動車登録手続案内ポータル「車を売買等により名義変更するために必要な書類」 https://www.jidoushatouroku-portal.mlit.go.jp/jidousha/kensatoroku/transfer/document/index.html
  • 軽自動車検査協会「名義変更(売買・譲渡・その他)」 https://www.keikenkyo.or.jp/procedures/change_name.html
  • 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji95.html
  • 裁判所「後見開始」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_01/index.html
  • 厚生労働省 成年後見制度利用促進ポータルサイト https://guardianship.mhlw.go.jp/
  • e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)第3条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

執筆:親の運転相談室 編集部。本記事は制度・手続きの一般的な情報整理であり、法的助言ではありません。個別の事案については、弁護士・司法書士・地域包括支援センター等の専門窓口に相談してください。

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