親が免許を返納したあと、家族が「必要なときはいつでも送る」と約束することがあります。返納を後押しするための大切な支援ですが、通院、買い物、役所、趣味が重なると、数週間で負担が想定を超えることがあります。
家族送迎がつらいと感じるのは、思いやりが足りないからではありません。回数、待ち時間、急な依頼、担当者が決まっていないことが重なると、どの家庭でも続けにくくなります。必要なのは、親を我慢させることではなく、家族が担う移動と、地域交通・タクシー・配送へ移す移動を分けることです。
結論:送迎回数ではなく拘束時間を数える
片道20分の病院でも、親を迎えに行き、受付を待ち、診察後に薬局へ寄り、自宅へ送ると半日かかることがあります。「月4回」だけでは負担を把握できません。
| 用事 | 月回数 | 1回の拘束時間 | 月合計 | 代替候補 |
|---|---|---|---|---|
| 定期通院 | バス、乗合交通、タクシー | |||
| 買い物 | 宅配、移動販売、同行買い物 | |||
| 薬局 | 通院日とまとめる、配送確認 | |||
| 趣味・交流 | 地域交通、知人との相乗り | |||
| 急な用事 | タクシー、相談窓口 |
まず2週間、実際の開始時刻と終了時刻を記録します。ガソリン代だけでなく、仕事の調整、待機、家族間の連絡も負担に含めます。
家族送迎が破綻しやすい5つの理由
1. 「いつでも」が具体化されていない
本人は約束どおり頼んでいるだけでも、家族は急な依頼と感じることがあります。頼める曜日、何日前までに連絡するか、緊急時の扱いを言葉にします。
2. 通院の帰り時刻が読めない
診察や会計が長引くと、迎えの家族が待ち続けます。行きは家族、帰りはタクシーなど、往復を分ける方法もあります。
3. きょうだい間で負担が見えない
近くに住む家族へ依頼が集中し、遠方の家族は実態を把握できないことがあります。送迎できない家族も、予約、宅配注文、費用負担、制度調査を担当できます。
4. 外出がすべて「必要」に見える
通院と食料は優先度が高い一方、本人にとって趣味や交流も生活の維持に重要です。家族の判断だけで削らず、本人と優先順位を話します。
5. 代替交通を一度も試していない
「バスは無理」「タクシーは高い」と決めつけ、家族送迎だけが残ることがあります。初回は家族が同行し、乗り場、支払い、帰り便を試してください。
回数上限の決め方
上限は全国共通の正解があるものではありません。家族の勤務、育児、健康、距離と、親の通院頻度を照らして決めます。
手順1:延期できない外出を先に置く
定期受診、薬、行政手続きなど日付が決まるものをカレンダーへ入れます。食料品は宅配やまとめ買いへ移せるかを確認します。
手順2:家族が対応可能な枠を出す
「土曜午前は月2回」「平日の急な依頼には対応できない」のように、現実に守れる範囲を出します。できない理由を長く弁明するより、できる枠を具体的に示します。
手順3:枠を超えたときの代替手段を決める
上限を超えたら断るだけでは生活が止まります。一般タクシー、自治体の交通券、デマンド交通、病院送迎、宅配などを用途ごとに決めます。
手順4:1か月後に見直す
通院が増える月や季節によって負担は変わります。上限を永久のルールにせず、次の見直し日を決めます。
親へ伝える会話例
「もう送れない」と切り出すと、本人は返納を後悔したり、家族に迷惑をかけていると感じたりします。責任の話ではなく、続けられる仕組みの話として伝えます。
通院と月1回の買い物は一緒に行きたい。ただ、急な送迎が重なると仕事との調整が難しい。行きは私、帰りはタクシーのように分けて、来月まで試してみない?
外出を減らしてほしいわけではないよ。好きな集まりへ行けるように、毎回家族が送る以外の方法も一緒に試したい。
避けたいのは、「返納したのだから我慢して」「タクシーを使えばいい」と方法だけを押し付けることです。費用、予約、乗降の不安を一緒に確認します。
用途別の代替手段
通院
- 行きは路線バス、帰りはタクシー
- 家族が初回同行し、2回目から本人が乗合交通を使う
- 病院やクリニックに送迎便の有無を確認する
- 受診日と薬局、買い物を同日にまとめる
免許返納後の通院ルートを試す方法で、帰り便と雨天時まで確認してください。
買い物
- 重い水・米は定期配送にする
- 生鮮品は週1回の家族同行にまとめる
- 移動販売や店舗配送を確認する
- 趣味を兼ねた買い物は残し、単なる補充だけ配送へ移す
趣味と交流
趣味を「不要不急」として最初に削ると、外出そのものが減る可能性があります。定期的な集まりは、参加者の相乗り、施設の送迎、地域交通を確認します。家族送迎は月1回の大切な外出へ残す方法もあります。
急な受診
通常の移動計画と緊急時を混同しないでください。症状に緊急性があるときは、タクシーや家族送迎だけで判断せず、地域の救急相談や医療機関へ確認します。救急車を呼ぶべきかどうかを家族だけで決めにくい場合は、公的な相談窓口を利用してください。
地域制度を探す順番
国土交通省は、高齢者の移動手段を確保するには交通と福祉の双方にある地域資源を組み合わせる考え方を示しています。地域によって使える手段が違うため、次の順で確認します。
- 市区町村の交通担当課へ、デマンド交通・コミュニティバスを聞く
- 福祉担当課へ、高齢者外出支援・福祉タクシーを聞く
- 免許返納者向けの交通券・ICカードを確認する
- 地域包括支援センターへ、移動以外の生活課題も相談する
- 交通事業者へ、予約・利用区域・介助範囲を確認する
地域別・返納後の移動と暮らしプランナーでは、47都道府県と優先100市区町村の公式窓口を確認できます。
送迎担当表を作る
家族の担当は、運転だけではありません。
| 担当 | できる支援 | できない時間 | 予備担当 |
|---|---|---|---|
| 近居の家族 | 定期通院の同行 | 平日の日中 | |
| 遠方の家族 | 予約・制度検索 | 当日の送迎 | |
| 本人 | 前日までの依頼 | 複雑なアプリ予約 | |
| 外部サービス | 買い物配送 | 緊急対応 |
遠方の家族が予約や費用を担えば、近居家族の連絡負担を減らせます。本人ができることまで奪わず、本人、家族、地域サービスの役割を分けます。
複合ケース:近くに住む長女へ送迎が集中した家庭
ある家庭では、父親の返納後、近くに住む長女が月2回の通院を担当する予定でした。しかし、買い物、理容、銀行、趣味の集まりも加わり、月10回近い依頼になりました。遠方のきょうだいは「必要ならタクシーを使って」と言いましたが、父親は電話予約に不安があり利用しませんでした。
家族会議では、長女が通院の行きだけ月2回担当し、帰りは病院受付からタクシーを呼ぶ練習をしました。重い買い物は遠方の家族がオンライン注文し、趣味の集まりは参加者へ相談して月1回相乗りする形にしました。送迎回数をただ減らすのではなく、予約と注文を家族間で分担したことで負担が偏りにくくなりました。
この事例は複数の相談場面を参考に構成したもので、特定の個人の体験ではありません。家庭の距離、費用、健康状態に合わせて調整してください。
家族の負担が限界に近いサイン
- 送迎の依頼が来るたびに強い怒りや不安が出る
- 仕事を頻繁に休む、遅刻する
- きょうだい間で責任の押し付けが続く
- 本人が頼むことを恐れて通院や買い物を諦める
- 家族が体調を崩しても送迎を続ける
この段階では、家庭内の工夫だけに頼らず、自治体や地域包括支援センターへ相談してください。厚生労働省は、地域包括支援センターを高齢者の総合相談などを支える中核機関としています。「介護認定がないから相談できない」と決めつけず、移動と生活で困っている事実を伝えます。
送迎費用を家族内で透明にする
送迎の負担は、運転する人だけが把握していることがあります。燃料代、高速道路、駐車場、待機中の食事、仕事を休んだ時間を必要な範囲で共有します。請求するためだけではなく、家族送迎と外部交通を公平に比べるためです。
| 費用・時間 | 月の実績 | 誰が負担 | 見直し案 |
|---|---|---|---|
| 燃料 | |||
| 高速・駐車場 | |||
| 有給・欠勤時間 | |||
| 予約・連絡時間 | |||
| タクシー等 |
親が費用を負担できる場合でも、家族の拘束時間まですべて解決するわけではありません。反対に、親へ費用負担を求めにくい家庭では、きょうだいがタクシー代や配送費を分担する方法があります。本人の財産を家族が使う場合は、本人の意思を確認し、記録を残します。
きょうだい会議で決める順番
家族会議で過去の不公平を議論し始めると、親の移動計画が決まりません。まず今後30日の具体策を決め、その後に長期分担を話します。
- 次回通院の日と必要時間を共有する
- 今月の送迎可能枠を各家族が出す
- 運転以外に担当できることを出す
- 外部サービスへ移す用事を決める
- 費用の負担方法を決める
- 見直し日をカレンダーへ入れる
連絡手段は一つにまとめます。個別電話で異なる約束をすると、本人も家族も混乱します。共有カレンダーが難しければ、紙の予定表を親宅に置き、変更した人が全員へ連絡します。
送迎を頼まれた当日の判断ルール
急な依頼が来るたびに感情で判断すると、家族関係が悪化しやすくなります。次の順で確認します。
- 今日でなければ困る用事か
- 症状に緊急性があり医療相談が必要か
- タクシーや地域交通を利用できるか
- 別の日へ変更できるか
- ほかの家族・知人が担当できるか
健康上の緊急性が疑われる場合は、送迎できるかだけで判断せず、医療機関や公的な救急相談へ確認します。緊急でない用事は、次の送迎可能日や配送へ変更します。
本人の外出を減らしすぎないための基準
送迎負担を減らすとき、通院以外をすべて削ると、本人の交流や活動が失われます。本人にとって大切な外出を次の3つに分けます。
| 区分 | 例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 生活維持 | 通院、薬、食料 | 予備手段まで確保 |
| 社会参加 | 趣味、友人、地域活動 | 月の枠を確保 |
| まとめられる用事 | 銀行、日用品、理容 | 同じ日に組み合わせる |
趣味の外出も本人の生活の質や社会参加に関わります。家族送迎だけで支えられない場合、昼間の活動へ変更できるか、会場の送迎があるか、知人と同乗できるかを本人と相談します。
会社や介護離職の問題へ広がる前に
送迎のための遅刻・早退が続く場合、家族だけで抱え込まないでください。勤務先の休暇・両立支援制度、自治体の相談窓口、地域包括支援センターなどへ早めに相談します。利用できる制度は勤務先や状況により異なります。
家族が「介護ではないから相談できない」と考えることがありますが、移動支援、見守り、食事など複数の生活課題があるなら、相談時にそのまま伝えます。介護認定や特定サービスの利用を前提にせず、困っている場面から相談先を案内してもらいます。
送迎を断るときに避けたい対応
- 直前になって無言で断る
- 返納した本人の責任だけにする
- 代替手段を確認せず「タクシーを使って」と言う
- きょうだいへの不満を本人へぶつける
- 外出理由を家族の価値観で選別する
- 運転を再開すればよいと受け取れる言い方をする
できない場合は、できる日時と代替案を同時に伝えます。たとえば「今日は行けない。明日の午前なら送れる。今日必要なら、登録してあるタクシーへ一緒に電話しよう」と具体化します。
半年先まで予定する用事
月ごとの通院だけでなく、数か月後に発生する用事もあります。
- 専門病院の検査
- 予防接種、健診
- 確定申告、年金、役所手続き
- 墓参り、法事
- 車の売却、名義、保険、税
- 季節用品の買い物
半年分をすべて確定するのではなく、日付が分かるものだけ早めに共有します。直前の依頼を減らし、公共交通や外部サービスを試す時間を作れます。
よくある質問
送迎の質を下げずに回数を減らす工夫
回数を減らすときは、重要な同行まで一律に外さないでください。家族が同行する価値が高い場面と、移動だけを外部へ任せられる場面を分けます。
家族同行を残したいのは、初めての病院、検査結果の説明、入退院、複数の手続き、本人が強く不安を感じる外出などです。定期的で経路が決まり、本人が一人で利用できる買い物や通院は、地域交通やタクシーへ移しやすい可能性があります。
また、一回の送迎で複数の用事を詰め込みすぎると、本人が疲れ、診察や買い物に集中できません。効率だけでなく、休憩、食事、トイレの時間を入れます。家族が急いでいる日は、買い物を配送へ分けるほうが安全です。
送迎する家族は、車の乗降環境も見直します。高い車両への乗り降り、狭い駐車場、後部座席の荷物、シートベルトの装着が負担になっていないかを確認します。家族車だから安全とは限りません。
外部交通へ移した後も、初月は帰宅時に短い連絡を入れ、困った場面だけ確認します。毎回の行き先や滞在を細かく監視するのではなく、「予約できたか」「帰れたか」「次も使いたいか」を聞きます。問題がなければ支援を減らし、本人が自分で外出を選べる状態へ戻していきます。
送迎を減らした結果、本人が受診や買い物を黙って諦めていないかも確認します。依頼回数が減ったことだけを成功とせず、必要な外出が別の方法で続いたかを見てください。本人が遠慮している場合は、月初に予定を一緒に確認し、頼める枠と外部交通を先に示します。
家族送迎にガソリン代をもらってもよいですか
家庭内で実費を分担することは考えられますが、有償で反復継続して他人を運送する行為には法令上の扱いがあります。家族間を超える送迎や地域の有償運送を検討する場合は、自治体・運輸支局などの案内を確認してください。
親がタクシー代をもったいないと言います
家族送迎にも燃料、時間、仕事の調整という負担があります。年間の移動費と家族の拘束時間を並べ、すべてをタクシーにするのではなく、用途を分けて試します。
送迎を断ると親が運転を再開しそうです
断る前に代替手段を一緒に試し、返納後の運転はできないことを落ち着いて確認します。車と鍵の管理も見直し、運転を繰り返そうとする場合は警察の安全運転相談や医療・福祉の窓口へ相談してください。
きょうだいが協力しません
運転以外の担当を具体的に依頼します。予約、配食手配、費用分担、親への定期電話、制度確認は遠方でもできます。口頭だけでなく担当表と見直し日を共有してください。
まとめ:家族送迎をゼロか無制限の二択にしない
免許返納後の家族送迎は、大切な支援ですが、無期限・無制限では続きません。回数ではなく拘束時間を記録し、家族が守れる枠と、枠を超えたときの代替手段を決めてください。
通院、買い物、趣味を一律に減らさず、家族送迎、地域交通、タクシー、配送を用途ごとに分けます。本人の外出を守りながら家族の生活も守ることが、長く続く返納後支援です。
免許返納後の30日生活移行トレーナーで、次の1か月に実際に試す方法を決めてください。
主な確認先
確認日:2026年7月30日
※交通・福祉制度、運行区域、予約条件は地域ごとに異なり、変更されることがあります。利用前に公式情報をご確認ください。

