免許を返したあと、外出が減りやすいのはなぜか
運転をやめると、これまで車で「ついで」にこなしていた買い物・通院・趣味・友人との行き来が、一つひとつ意識して計画しないと成立しなくなります。その結果、用事の回数そのものが減り、気づいたときには家にいる時間が大幅に増えていた、という相談は珍しくありません。本記事は公式検査や診断ではなく、運転可否や免許更新の合否を判定するものではありません。手続きや制度の詳細は、お住まいの自治体や地域包括支援センター等の公式窓口でご確認ください。
厚生労働省は、外出や人との交流が減って活動量が落ちる「閉じこもり」を、介護予防・フレイル予防の観点で気にかけるべき状態の一つとして位置づけ、地域包括ケアの中で「通いの場」づくりを進めています。ここでは医学的な効果を断定はしませんが、「返納=外出が減る」を当たり前にしないために、返納の前後どちらからでも始められる、1か月・週ごとの具体的な計画を紹介します。「とりあえず一週間だけ試す」よりも一歩進めて、毎月の生活として外出が定着する形を、4週間かけて少しずつ組み立てていきます。
計画の前に決めておく「楽しみは削らない」という原則
外出を組み直すとき、家族はどうしても「通院」「買い物」など必要な用事から埋めようとします。ところが、用事だけを効率よく残すと、外出が「義務の移動」だけになり、続ける気力が長続きしません。閉じこもりを防ぐうえでは、むしろ「会いたい人に会う」「好きな場所に行く」といった楽しみの外出を、最初から計画の柱に入れておくことが大切です。
本人が「これだけは続けたい」と思う外出が、家族の想像と違うこともよくあります。畑、囲碁・将棋の会、馴染みの喫茶店、孫の送り迎え、月命日のお墓参りなど、本人にとって意味のある外出を先に聞き取り、用事と同じ重みで残す前提で1か月を設計してください。
なぜ「楽しみの外出」が閉じこもり予防につながるとされるのか
厚生労働省の解説では、フレイル(健康な状態と要介護状態の中間の段階)の予防は「栄養・身体活動・社会参加」の三つを一体で考えることが大切だと整理されています。このうち社会参加は、趣味・余暇活動・地域活動などを通じて社会とのつながりを持つことを指し、つながりが薄れていく状態は「社会的フレイル」として気にかけるべきものとされています(厚生労働省「フレイル予防」)。用事の外出だけでなく、人と会う・楽しむための外出を残しておくことが、結果的に外出の総量を保つことにつながります。効果には個人差があり、ここで治療や予防を保証するものではありませんが、「楽しみの外出を最初に守る」という発想は、計画を長続きさせるうえでも理にかなっています。
1か月計画の全体像
細かく決める前に、4週間で何をするのかをざっくり共有しておくと、本人も家族も見通しが立ちます。次の表は、各週の目的と「その週でやること」を一覧にしたものです。表のとおりに進まなくても構いません。重要なのは順番で、「いまを把握する→移動手段を試す→楽しみを足す→続く形に整える」という流れを崩さないことです。
| 週 | その週の目的 | やること | 達成の目安 |
|---|---|---|---|
| 1週目 | 現状を知る | 1週間の外出を書き出し、残したい外出を仕分けする | 「絶対に残したい外出」が3つ以内に絞れている |
| 2週目 | 移動手段を試す | 最も大切な外出1つを、車以外の方法で実際に体験する | 付き添いつきで1往復、できれば本人だけで1往復 |
| 3週目 | 楽しみ・交流を足す | 通いの場・サロン・趣味の集まりを1つ見学・参加する | 「また行ってもいい」と思える行き先が1つできる |
| 4週目 | 続く形に整える | 週のひな型をつくり、合わない部分だけ入れ替える | 毎週の予定として外出が2〜3回組み込まれている |
1週目|いまの外出を書き出し、「残したい外出」を決める
最初の1週間は、新しいことを始めず、現状をそのまま記録することに使います。返納するとどの外出が成り立たなくなるのかが見えていないと、代わりの手段を選びようがないからです。
1週間ぶんの外出を時間帯ごとに書き出す
カレンダーやノートに、その週に実際に出かけた先を「いつ・どこへ・何のために・どれくらいの時間」で書き出します。買い物、通院、趣味、友人・近所付き合い、金融機関や役所などをすべて並べると、本人の生活リズムが一目で分かります。記入は本人が話したことを家族が代筆しても構いません。次のような形で十分です。
- 記入例:月曜・午前/スーパー/食料品の買い出し/約40分/車で往復
- 記入例:木曜・午後/整形外科/リハビリ通院/約2時間/車で往復、待ち時間長い
- 記入例:土曜・午前/公民館/囲碁の会/約3時間/本人がいちばん楽しみにしている
1週目のチェック項目
- 1週間で「車を使った外出」が何回あったか数えられたか
- 外出のうち、時間帯(午前・午後・夜)に偏りがないか見えたか
- 本人が「これは楽しみ」と話した外出に印をつけたか
- 家族の送迎がすでにどれくらい発生しているか把握できたか
「絶対に残したい外出」に印をつける
書き出した外出を、本人と一緒に三つに仕分けします。①絶対に残したい外出(通院・本人の生きがい)、②回数を減らしてもよい外出、③宅配や代行で置き換えられる外出、の三段階です。この①が、次週以降に代替手段を整える優先対象になります。①が多すぎると計画が回らないので、まずは3つ以内に絞るのが目安です。本人が主語になるよう、家族は聞き役に回ってください。
2週目|代わりの移動手段を「1つだけ」実際に試す
2週目は、1週目で「残したい」と決めた外出のうち最も重要な一つについて、車以外の行き方を実際に体験します。頭で考えるだけでは、坂道や乗り換え、待ち時間の負担は分かりません。あえて一つに絞るのは、いくつも同時に変えると本人が混乱し、「やはり車がよかった」となりやすいためです。
路線バス・コミュニティバスを下調べして一緒に乗ってみる
自治体が運行するコミュニティバスやデマンド型乗合タクシーは、料金が安く高齢者割引や無料パスが用意されている地域もあります。路線図・時刻表は市区町村の公式サイトや窓口、地域包括支援センターで確認できます。最初の一回は家族が付き添い、停留所までの距離、段差、所要時間を一緒に確かめると、本人の不安が具体的に減ります。
タクシー・家族送迎・宅配を組み合わせる
すべてを公共交通に置き換える必要はありません。「重い買い物は宅配にして、本人は身軽に店をひと回りだけ歩く」「通院は予約制のタクシー、帰りだけ家族が迎える」といった組み合わせが現実的です。自治体によっては高齢者向けのタクシー料金助成や、運転経歴証明書の提示で受けられる割引もあるため、利用できる支援を窓口で確認しておきます。
公共交通とICカードに「付き添いつきで」慣れておく
長く運転してきた人ほど、バスの乗り降りや運賃の払い方、ICカードのチャージに不慣れなことがあります。いきなり一人で乗ると失敗が怖くて足が遠のくため、2週目のうちに「家族と一緒に練習する」時間を取っておくと安心です。具体的には、ICカードを作ってチャージしておく、降車ボタンを押すタイミングを一緒に確認する、券売機や運賃箱の操作を本人にやってもらう、といった小さな練習を一つずつ重ねます。スマートフォンの乗換案内アプリを家族が設定し、行き先と時刻だけ見れば分かるようにしておくのも有効です。
2週目のチェック項目
- 試した移動手段で、家まで「往復」できたか(片道だけで終わっていないか)
- 停留所・駅までの歩く距離は、本人にとって無理のない範囲だったか
- 運賃の払い方・ICカードの使い方を本人が一度は自分で操作できたか
- 「これなら一人でも行けそう」か「もう一度付き添いが要る」か、本人の感想を聞けたか
3週目|「人と会う・楽しむ」場所を1つ足す
用事の移動手段にめどがついたら、3週目は楽しみと交流の外出を一つ加えます。ここを抜かすと、外出が用事だけになり、回数が先細りしてしまいます。閉じこもり予防の観点でも、定期的に出かける「行き先」を持っておくことが支えになります。
地域の「通いの場」やサロンを探す
厚生労働省は、住民同士が気軽に集まり、体操・茶話会・趣味活動などを通じて「生きがいづくり」「仲間づくり」を広げる場を「通いの場」として、地域の介護予防の拠点に位置づけています。多くが公民館や集会所、地域の施設で開かれています。場所や日程は、地域包括支援センター、自治体の高齢者支援窓口、社会福祉協議会で教えてもらえます。まずは見学から始め、合いそうなら週1回など無理のない頻度で通うのがおすすめです。
「行ってよかった」と感じられるかを大切にする
新しい場所に通うのは、本人にとって勇気が要ることです。内閣府の高齢社会白書では、グループ活動に参加した高齢者が「参加してよかったこと」として、「新しい友人を得ることができた」(48.8%)、「生活に充実感ができた」(46.0%)、「健康や体力に自信がついた」(44.4%)を挙げています(平成25年調査、平成29年版高齢社会白書)。これは効果を約束する数字ではありませんが、「出かけた先で人とつながれた」という実感が、次も行こうという気持ちを支えることはうかがえます。一度行って合わなければ別の場所を探せばよい、という気軽さで構いません。
図書館・公民館・趣味の集まりを定期予定にする
あらたまった介護予防の場でなくても構いません。図書館に新聞を読みに行く、公民館の講座に参加する、続けてきた趣味の会に顔を出す――こうした「決まった曜日に行く場所」が一つあるだけで、外出のリズムが保たれます。本人がすでに持っているつながりを途切れさせないことを優先してください。
4週目|無理なく続く形に整える
最後の週は、3週間ためした移動手段と行き先を、毎月続けられる現実的なスケジュールに落とし込みます。返納後の生活は「一度決めて終わり」ではなく、季節や体調で見直していくものだと考えておくと、本人も家族も気が楽になります。
1週間のひな型をつくり、負担の偏りをならす
「火曜は通い場、木曜は通院、金曜は買い物」のように、おおまかな週のひな型を決めます。送迎や付き添いが特定の家族に偏らないよう、近くの家族・離れて暮らす家族・公共交通・宅配で分担を見える化しておくと、長く続けやすくなります。次のような割り当て表にすると、誰が見ても分かります。
| 曜日 | 外出の予定 | 移動の手段 | 担当・備考 |
|---|---|---|---|
| 火 | 通いの場(体操) | コミュニティバス | 本人ひとり/慣れるまで月1回は付き添い |
| 木 | 通院(リハビリ) | 予約制タクシー+帰りは送迎 | 近くに住む長女 |
| 金 | 買い物 | 本人は徒歩で店をひと回り+重い物は宅配 | 宅配は離れて住む長男が手配 |
| 日 | 趣味の会・墓参りなど | 家族送迎 | 月により交代 |
歩く力と体を動かす習慣を残しておく
運転をやめると歩く機会が減りがちなので、近所への買い物は一駅ぶん歩く、停留所まで歩いて行く、といった無理のない範囲で体を動かす習慣を残します。厚生労働省はフレイル予防として、栄養・社会参加とともに「体を動かすこと」を挙げており、外出はその身体活動を兼ねるという見方もできます。ただし運動量や歩く距離は人それぞれで、ここで具体的な目標を保証するものではありません。体調や持病に不安があるときは、無理をせず、かかりつけ医にも相談してください。
季節と体調で計画を見直す前提にしておく
夏の猛暑日や冬の路面凍結、雨の日が続く時期は、いつもの外出がそのまま続けられないことがあります。「猛暑の日は午前の涼しい時間に切り替える」「雪の日はバスをやめて宅配と電話での会話に置き換える」など、季節ごとの代替案をあらかじめ一つ決めておくと、悪天候を理由に外出がゼロになるのを防げます。体調が優れない週は予定を減らしてよいこと、回復したら戻せばよいことも、本人と家族で共有しておきます。
1か月後に振り返り、合わない部分だけ入れ替える
4週間試すと、「この行き方は負担が大きい」「この通い場は楽しい」といった手応えが必ず出てきます。うまくいった外出は残し、合わなかった手段だけを別の選択肢に入れ替えれば十分です。完璧な計画を一度で作ろうとせず、続けながら微調整していくほうが、結果的に外出が減らない生活につながります。
家族の関わり方|「やってあげる」より「一緒に確かめる」
家族が先回りして全部の送迎を引き受けると、一見やさしいようで、本人が「自分では出かけられない人」になっていくことがあります。閉じこもりを防ぐ計画では、家族の役割は「代わりに移動してあげること」ではなく、「本人が自分で出かけられる方法を一緒に見つけ、最初だけ付き添うこと」に置くのが基本です。
とくに離れて暮らす家族は、毎回の送迎はできなくても、できることがあります。コミュニティバスの時刻表を調べて送る、宅配サービスを代わりに申し込む、乗換案内を設定する、電話やビデオ通話で「今日はどこへ行った?」と聞く――こうした関わりは、移動の支援であると同時に、人とのつながりそのものでもあります。送迎を担う家族と、情報や手続きを担う家族で役割を分けると、一人に負担が集中しにくくなります。本人ができることは本人に任せ、家族は「困ったときの後ろ盾」に回る、という距離感を意識してください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 本人が「外出は面倒だ、家にいるほうが楽」と言って動こうとしません。
いきなり「出かけよう」と促すより、本人がもともと好きだった行き先や人を起点にするほうが動きやすくなります。「あの喫茶店のマスターが元気か気になる」「畑の様子を見に行こう」など、本人にとって意味のある外出を一つ選び、そこへの行き方だけを一緒に整えてみてください。用事より楽しみを先に置く、という本記事の原則はここでも有効です。無理強いはせず、回数も最初は週1回など小さく始めて構いません。
Q2. 公共交通が少ない地域で、車がないと本当に移動できません。
路線バスが少ない地域でも、コミュニティバスやデマンド型乗合タクシー、福祉有償運送などが用意されている場合があります。どんな移動手段があるかは地域差が大きいため、まずはお住まいの自治体の高齢者支援窓口や地域包括支援センターに「車を返したあとの移動手段を相談したい」と伝えて、利用できる制度を確認してください。タクシー料金の助成がある地域もあります。
Q3. 「通いの場」やサロンに行くのを本人が恥ずかしがります。
最初から参加するのではなく、「見学だけ」「家族と一緒に一度だけ」という入り方にすると、心理的なハードルが下がります。合わなければ別の場所を探せばよく、一つに決める必要はありません。図書館や公民館の講座など、必ずしも介護予防を前面に出していない場から始めるのも一つの方法です。すでに本人が持っている趣味の集まりを途切れさせないことも、新しい場所を探すのと同じくらい大切です。
Q4. 免許を返したことを本人が後悔して、ふさぎ込んでいます。
運転は多くの人にとって自立の象徴であり、それを手放した喪失感は自然な感情です。家族が「返してよかったでしょう」と結論を急ぐより、本人の寂しさを受け止めたうえで、「車がなくても行きたい所には行ける」という小さな成功体験を一緒に作っていくことが支えになります。気分の落ち込みが長く続く、食欲や睡眠に影響が出ているといった様子があれば、本記事の範囲を超えるため、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談してください。
Q5. この1か月計画は、免許を返す前から始めてもよいですか。
はい、むしろ返納の前から始めておくほうがおすすめです。返してから慌てて移動手段を探すより、車があるうちに「車以外の行き方」を試しておくと、本人の不安が小さいまま移行できます。返納の時期がまだ決まっていない段階でも、1週目の「外出の書き出し」だけは先に始めておくと、いざというときの準備になります。返納そのものの手続きや時期については、自治体や警察の窓口、かかりつけ医とも相談しながら進めてください。
参考にした公的情報
確認日:2026年6月28日
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執筆・編集:親の運転相談室 運営者
本記事は一般的な情報整理を目的としており、専門資格者による個別の監修は受けていません。具体的な手続き・制度・診断・運転可否の判断は、各公式窓口や専門機関でご確認ください。

